『A Loose Boy』撮影日誌トラブル顛末 7月9日夜。プロデューサー大山は、今夜もロケ宿で撮影日誌の原稿を打ち込んでいた。クランク・インから一週間。スタッフの熱意と努力で撮影はなかなか快調に進んでいる。ok.ok.このまま、中盤戦に突入だ。きついと言えばきついが、それもまた良し、である。しかし、睡魔は一日中暑さに曝された体を容赦なく襲うのだった。「眠い」大山は一人ごちた。原稿を打ち込んでいるノート・パソコンの画面が、すーとフェイド・アウトし、目の前が暗くなっていく。「これではいかん。一旦はじめたからには、なんとしてもやりきらねば」大山は立ち上がって、気合いを入れ直し、再びパソコンに向かった。「よっしゃ」キーボードに構えた手が、電光石火の技を見せるべく、待ちかまえている。 「ん?」 ん?ん?ん? やっぱり、画面が暗いんですけどー。こ、これはもしかして、私の目のせいじゃない、てこと、かな? おーい、ちょっと待ってよー。大山は思わず画面をがばと握りしめた。「おい、しっかりしろ。ここで眠っちゃだめだ」大山の呼びかけに応えるように、うっすらと明かりが戻った。「がんばれ!」大山は祈った。しかし、奇蹟は起こらなかった。一瞬の希望もはかなく、パソコンは暗闇の世界へと沈んで行った。 「ひょーえー!」 大山は、疲れた脳味噌にむち打ち、フル回転で考えた。「えーと、とにかく、修理だ。おお、ちょうど明日東京に戻る用事がある。そっちにいるチームに渡して、なんとかしてもらおう!」 久々の東京も暑かった。機械を壊したと告白する瞬間を思うと、背中にじっとりと汗がにじんだ。 大山を見て、なにも知らないページ制作スタッフは、歓迎とねぎらいの言葉をかけようと、集まってきた。しかし、その隙を与えず、大山は叫んだ。「コンピューターがこわれたー!」 沈黙が流れる。・・・スタッフの一人がおもむろに口を開いた。(つづく) 波乱はまだまだ序の口。ああ、大山の運命や如何に! 次回「東京篇」を待て! (筆・高枕子/本文一部想像) |