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 ● 7月 6日 (第 1 話)

「朝だぁ、起きろ。」
隅田川沿いのかなりガタのきた2階建て。声を張り上げているのは菅野あき(夏木マリ)。1階で“あき”というスナックを女手一つで切り盛りしている。布団の中でモゾモゾしているのは娘の冴(財前直見)。

「お前、今日から出勤するんだろ。」
「そうだ!。」
冴はあわてて布団から飛び出した。

菅野冴の仕事は看護婦。だがナースになった理由はイイ男でお金持ちの医師と結婚するためだった。
「新しいドクター!新しい恋!そして結婚。」

冴は今日から新設された科に異動するのだ。
「頑張るんだよ。」
あきの声援を背に受けて、冴は家を飛び出した。

セント・マーガレット病院。ここが冴の職場。
「あそこね。」
冴はざわついているナースステーションに飛び込んだ。ナースの橘萌子(星野有香)、佐野まゆみ(安西ひろこ)らが仕事の分担をめぐって大騒ぎ。
「総婦長が見えられるから静かにしなさい!。」
声を張り上げたのは主任ナースの村瀬恵子(横山めぐみ)。そこへ総婦長の一条玲子(鷲尾真知子)が姿を現わした。
「何を騒いでいるの!もうすぐ院長が担当のドクターを連れていらっしゃいます。」
その一言で冴は目を輝かせた。

「この新しい科に相応しいフレッシュな人材を、担当医として迎えることにしました。」
院長の吹雪光一郎(秋野太作)の後ろから現れたドクターを一目見て、冴は絶句した。

ドクターは女医。 しかも以前に冴の盲腸手術を担当した相沢久美子(京野ことみ)ではないか。にこやかに挨拶する久美子に向かって、冴は小さく「ケッ」と舌打ちした。

冴がふてくされて屋上でタバコをふかしていると、恵子がやって来た。
「外科からも他のドクターが応援に来るそうよ。」
「あー、良かった。もちろん独身でしょうね。」
冴は立ち直りが早い。そんな2人の様子を給水塔の上からじっと見つめている少女がいた。

「バッカみたい。」
その少女、入院患者の上原美咲(河辺千恵子)は吐き捨てるようにつぶやくと、2人の前を通りすぎていった。

救急ハート治療室 第1話
「若い女の子と張り合って、ドクターを狙うんなら、もう少しお腹をひっこめた方がいいわよ。」
「あんたの下手な手術のおかげで、あたしの美しい体が傷ものになったのよ。」
冴と久美子が言い合っていると、外科医の斉藤透(大滝 純)が口をはさんだ。
「ケンカするなら外でしろ!早く上原美咲を連れて行け。」
美咲は生まれつきの心疾患だが、オペ当日になると逃亡を繰り返すため、斉藤は退院勧告を出していた。それが一転して総合医療科へ移されることになった。

「つまり、ここはやっかい者の吹きだまりの科だってことよ。患者だけでなくナースもね。ドクターだって研修あがりで一番安くすむから、あたしが雇われたのよ。」
久美子はきっぱりと言い切った。
「でも、あたしが任された限りは立派な科にしてみせる。」
圧倒された冴は何も言えなかった。

病室前の廊下では美咲の母親、亜矢子(相本久美子)が冴を待っていた。
「よろしくお願いします。」
亜矢子は弁護士。夫を数年前に亡くしたが、経済的には何一つ不自由はない。
「これから仕事ですので。」
冴に菓子折りを手渡すと、足早に帰っていった。

「この人たち、各病棟のトラブルメーカーばかりじゃない。」
ナースステーションで資料を見ていた冴は呆れ返った。総合医療科へ移ってくる患者は美咲をはじめとして、医師や看護婦をさんざんてこずらせているやっかい者の患者ばかり。久美子の言葉は本当だった。

そこへ矢口春子(幸田まいこ)が飛び込んできた。
「すぐ来て下さい!美咲ちゃんが。」
冴はナースステーションを飛び出した。

救急ハート治療室 第1話
美咲は母親が持ってきたシュークリームを病室の壁にぶつけて暴れていた。
「そんなに元気あるんなら、さっさと手術を受けて退院しな。」
美咲は冴にもシュークリームを投げつけた。冴が難なくよけたら、後ろからはいって来た久美子の顔面に命中。
「あの子は元気そうに見えても心疾患なのよ。発作が起きたら命取りなの。」
「はい、分かりました、ドクター。」
冴は笑いをこらえて、顔を洗う久美子にタオルを手渡した。

またもや美咲が騒動を起こした。屋上の給水塔の上から降りてこようとしない。
「飛び降りたらダメだよ。」
事務長の山田(増田由紀夫)と婦長の玲子が必死に説得しても、美咲は知らんぷり。仕方なく冴が恐々と登っていくと、美咲は涼しい顔で降りてきた。
「ギャー!。」
高所恐怖症の冴は思わず下を見て、悲鳴をあげた。

「どうしてあんなガキにおちょくられなくちゃいけないのよ。」
その夜、冴は“あき”のカウンターで荒れていた。
「冴ちゃんをバカにするなんて許せない。」
冴をなだめているのは近くのスーパーの阪本五郎(坂田聡)。

「看護婦なんか辞めて、五郎ちゃんと結婚してスーパーを手伝ったらいいじゃない。」
「そんな!。」
あきにけしかけられた五郎は満更でもない表情。もっとも冴はやけになってカラオケをがなり始めた。

翌朝、冴がナースステーションで二日酔いの頭を抱えていると、またもや美咲が病室から消えたと連絡が入った。美咲は売店前にいた。お見舞い帰りの父親と娘。美咲は娘に近寄ると、手にしていた缶ジュースを顔に浴びせかけた。

「ウチの娘になんてことを!。」
父親が逃げようとした美咲を捕まえた。美咲は胸を押さえてうずくまった。久美子と冴が走ってきた。
「すぐに病室に運んで!。」

冴は美咲を抱え上げた。ところが美咲が笑ったのを冴は見逃さなかった。
「あんた、心臓病だからって、何でも許されると思ったら大間違いよ。いい加減にしなさい。」
冴は美咲の頬を張った。再び美咲は胸を押さえてうずくまった。
「また、発作のふり?。」
しかし美咲はうずくまったままだった。


カンテーレ