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 ● 7月13日 (第 2 話)

「水上さん、お迎えにあがりました。」
冴(財前直見)は外科の患者、水上香織(三浦理恵子)の病室のドアを開けた。
「お待ちしておりました。」
香織は微笑みを返してきた。

香織は自宅のマンションの階段から落ちて足を骨折した。ほぼ完治していたが、結婚を来月に控えてナーバスになっているので総合医療科へ移されることになった。香織は若くて美人だから、男性患者からチヤホヤされている。
「フン、上等じゃない。」
冴はこっそり毒づいた。


相変わらず冴の頭の中にあるのは、カッコイイ独身医師をゲットすることだけ。早速目をつけたのが、ニューヨーク帰りの柏木公平(吉田栄作)だ。総合医療科担当の外科医。その公平のシャワーシーンをこっそり覗いていたら、運悪く婦長の玲子(鷲尾真知子)に見つかった。

もちろん久美子の耳にも入り
「まるでストーカーね。」
「純愛よ、純愛。」
いつものごとくののしりあう久美子と冴。

「あたしも最近、あなたみたいなストーカーに狙われて、困っているのよ。」
久美子のマンションに何者かがベランダから押し入ろうとしたらしい。
「下着泥棒よ。女なら誰でもよかったのよ。」
冴は憎まれ口を叩いた。

冴は公平が何かにつけて久美子に親切にしているのが気にくわない。
「相沢先生なら心配ありませんよ。」
こっそり耳打ちしてくれたのは同僚のまゆみ(安西ひろこ)。
「斉藤ドクターと婚約しているんですって。」

久美子の父親は開業医。会えば医師と結婚して後を継いでほしいと娘に言っている。そして久美子の両親が勝手に決めた相手が外科医の斉藤(大滝純)。野心家の斉藤は病院長のイスを目当てに、自ら久美子と婚約していると周囲に吹聴している。

「相沢のヤツ、あたしより先に医者と結婚しようなんて、絶対に許せない。」
しかし冴は誤解していた。久美子は斉藤と結婚したい気持ちなどさらさらなかったのだ。


冴は香織の車イスを押して庭にやって来た。香織は来月、建築家のフィアンセとサンタモニカの教会で挙式するという。
「彼の才能を花開かせることだけが、私の夢なんです。」

「うらやましい。」
冴は思わずため息をもらした。ところが冴が胃の検査を勧めると、香織は急に声を荒らげた。
「私のことはほっておいて下さい。」


久美子の診断によると、香織は胃かいようの兆候が見られる。かなりの痛みがあるはずなのに、香織は薬を飲まずにトイレに流していた。食事もほとんど食べない。

救急ハート治療室 第2話
「足の骨折も完治しているのに、自分で歩こうとしないのは、ちょっと変よね。」
主任看護婦の恵子(横山めぐみ)も首をひねった。しかし久美子は
「変な詮索はしないで。彼女はちょっとマリッジブルーで不安定なだけよ。」
と取り合わない。

「結婚間近な者同士、不安な気持ちはよく分かるって言いたいわけ。」
「私は斉藤先生と結婚なんかしません。」
冴にからかわれて久美子は意地になって否定した。

その久美子に花束が届いた。久美子は何気なくカードを開けると
「痛い!。」
カミソリが貼りつけられていた。カードには“ご婚約おめでとう”の文字が書かれていた。


翌朝のナースステーションはその話題で持ちきり。
「案外、菅野先輩だったりして。」
「冗談じゃないわよ。」
冴にしてみれば、とんだ濡れ衣だ。

冴は患者の黛一樹(剣太郎セガール)に占ってもらった。
「カミソリ入りの花束の犯人は、この病院の中にいます。」
そこへ担当ナースの萌子(星野有香)が病室に戻ってきた。
「また、あたしの一樹さんに手を出して。」

一樹は大会社の御曹司とも芸術家ともウワサされているナゾの患者。しかもルックス抜群だから、狙っているナースは数知れず。
「早く自分の患者さんのところへ戻って下さい。」
「分かったわよ。」
冴は香織の病室へ向かった。


まゆみが汚れたシーツを丸めて怖い表情で立っていた。冴が一樹のところで油を売っていたものだから、代わりにシーツ交換をさせられたらしい。
「そんなに怒らないでよ。」
「先輩、たしか香織さんのフィアンセって、和也さんって言ってましたよね。その人、死んでますよ。」

救急ハート治療室 第2話
サイドテーブルに置かれていた写真を見て、思い出したという。香織のフィアンセ竹ノ内和也は昨年、救急外来で亡くなった患者だった。
「あたし、担当だったからよく覚えているんです。」
まゆみはきっぱりと言い切った。

「絶対におかしいって。」
冴は久美子に知らせた。調べてみると、香織の家はアパートの1階。どうやって階段で転ぶというのか。
「あんたとこのベランダから飛び降りたストーカーも、きっと足くらい折ったわよね。」
「香織さんがストーカーだと言うの!患者さんを疑うなんて、あなた、それでもナースなの!。」
久美子は一笑に付した。


恵子は和也のデータをパソコンで検索した。確かに昨年末にくも膜下出血で亡くなっていた。
「昼間に自宅で倒れて、夜まで発見されなかったらしいわ。」
担当医は久美子ではない。

「やっぱり無関係なのか。」
冴が納得しかけた矢先、恵子が声をあげた。
「この人、前にも救急外来で受診してるわ。」
その時に診察したのは久美子だった。


久美子は香織の車イスを押していた。
「先生、このイス、ストッパーが少し甘いみたいなんです。ちょっと座ってみてくださらない?。」
久美子は香織に代わって車イスに座ってみた。その瞬間、香織はストッパーを外して、階段の下へ向けて思い切り車イスを押した。


カンテーレ